2014年
4月
03日
木
これから不動明王を彫るために、榧(カヤ)を使います。
八世紀後半(奈良時代)から十世紀(平安時代)にかけての主要な一木造りの仏像は圧倒的にカヤが多かったようです。
1998年のMUSEUM No.555には、実物の部位から採取された試料の電子顕微鏡および光学顕微鏡観察に基づく木材樹種識別結果が報告されており、奈良の唐招提寺の如来立像、十一面観音立像、伝衆宝王菩薩立像、伝薬師如来立像等、大安寺の十一面観音立像、聖観音立像、伝馬頭観音立像、広目天立像等、神護寺の薬師如来立像、元興寺の薬師如来立像の17 体の全てがカヤ材だったそうです。
カヤという材は均質かつ緻密で甘いような香りと光沢があり、個人的に好きな樹種です。碁石や駒を打つのに塩梅が良いようで碁盤や将棋盤の材料として多く使われておりますので、普段目にする機会があるかもしれません。
淡黄色で木目は目立たずも存在感がありとても美しいものです。これから徐々に彫り出していくわけですが、自分としても仕上がりが楽しみです。
2014年
4月
04日
金
必要な部分を取るために角材からある程度の大きさに製材しました。この状態からさらに細かく吟味して図を写します。
顔の部分を柾目に持ってくるということ、辺材(白太)を除くこと、割れを除けることをすると初めでは大きく十分に目的の材が取れそうなものでも実際はあまり適した部分が取れないものです。
ある程度の割れや色味などを気にしなければ良いのですが、彫刻は贅沢なもので本当に良いところしか使いません。木目を考えれば尚更です。
確実に言えることは木材は有限であり、また自分が生きてきた何倍もの年月を経たものを使います。敬意を込めて大事に使わなければなりません。
2014年
4月
08日
火
図を写して輪郭で落としてから荒彫りへ
余分なところを全体的にはつっていく
落とすところは落とすところ。結局最後には取らなければならない部分ですから、いかに的確に見当を付けて進めるかが課題です。
見当を付けるために目安として残しておく部分もありますが、時間を掛けるべきはもっと先のところです。
2014年
4月
20日
日
今回は童子の不動様なので、各部分の要素を残しつつも手足は短く凝縮するようなイメージで進めています。
春になって気温も上がり、冬のモノトーンの景色から色彩が溢れてきて散歩していても気分が良い。
2014年
4月
22日
火
板に光背の図を写して糸鋸で抜いていく
光背は横から見ると真っ直ぐではなく内側にカーブを描いており、若干包み込むような形になっているので、はじめにしゃくるように鑿ではつっていきます。
2014年
5月
20日
火
全てを組んで完成です。
総榧材で彫り上げたものなので綺麗な木目と色合いが良く、カヤ特有の甘いような柔らかい香りがします。
全体高 35cm、幅16cm、奥 12.5cm
本体 20.5cm
2014年
9月
27日
土
本体と光背、台座に必要な材料を選び木取りをしました。
本体は輪郭に沿って帯鋸で落としておきます。
機械を掛けていくに従い甘いような芳香が立ち籠めます。荒く挽かれた表面に日焼けと埃等でくすんだ角材が、綺麗な黄色い木肌が出て来ます。
2014年
10月
17日
金
カヤの木は削り易い方ですが、この光背のように木口が多くある時はなかなか大変です。垂直に突いた際に裏で欠けないようにあらかじめ裏からは面を取っておきます。
2014年
11月
27日
木
一つのものを完成させるまでにそのものと向き合っている時間は本当に長い。こうやって手の中で彫り進めて行くうちに思いが入るということはあると思います。
面白いもので同じ図案で彫ったとしても人が違えば同じにはなりません。それぞれの個性と解釈で違った作品になります。同じ人が彫ったとしても良く似てはいるものの全く一緒ということはなく、そもそも素材の木自体が同じものはありません。
2014年
11月
30日
日
顔の彫りが済んだところです。両目を開き、両狗牙上出で牙を上唇の上に出している形です。まだ眼を入れていない状態ですが完成像が見えると思います。
辮髪を左肩に垂らしているため顔を彫り上げると同時に髪、冠、首周りを仕上げます。
2014年
12月
11日
木
別に不動明王が右手に持つ宝剣と、左手に持つ羂索(けんさく)を作ります。
これは羂索の一方に結わえる分銅になります。縄を通すため輪も作らなくてはいけないので細かい作業です。
羂索に使う赤、黄、白、黒、緑の五色の縄は絹の撚縄を使います。
握った左手の間を三回通して輪を作り、先端に彫り出した分銅と環を結びます。
2014年
12月
14日
日
台座に花菱の地紋を彫り込みます。小さく狭い範囲なので彫りにくいですが彫り方は一緒です。
同じ文様の繰り返しなので順番に小刀を入れていきます。
一番最後に花弁に刻みを入れて仕上げ
これを入れることによって締まった印象になります。
一番下の段
地を下げて文様を出す形です。
2014年
12月
20日
土
完成
今回は二体同じものを制作しました。
一つの材を柾目で二つに割った共木のカヤ材で彫ってあります。火焔光背も同様に同じ板から取ったもので、別々の所には納まりますが双子のようなものです。
長い時間、自分の手で彫り進めて来ただけに完成した達成感と手元から離れて行く寂しさのような気持ちがあります。
2014年
12月
28日
日
先日、京都 六波羅密寺様で施主様と一緒に不動明王の開眼法要をして頂きました。
空也上人像や平清盛像、地蔵菩薩坐像など一度は見たことがあるであろう有名な仏像が数多く安置されているお寺で平家ゆかりの地でもあります。
開眼法要が始まるとお香の香り、方丈の読経に非日常的な世界に引き込まれ厳かな心持ちになっていきます。自分の手で彫り出した仏像だけに今までの過程や思いが蘇ります。
法要を終えて外の廊下へ出ると、霙混じりの通り雨。方丈も「何か良いことがあるかな」と仰り、なんとも不思議な気分でした。
自分の手で施主様にお不動様をお渡しして、法要をして頂いたことがとても印象に残りますし、灌漑深くもあります。このような機会を頂いて感謝です。